人件費削減といえば「給料カット!」「人員整理!」と頭にすぐ浮かんだら、その思考は危険信号です。
なぜなら、何の対策もとらずに、はじめから給料カットや人員整理をしてしまうと、利益をますます下げてしまうことになるからです。
会社経営において、利益を圧迫している原因の一つとして、人件費をどうにかコストダウンする方法はないかと探すことはもちろん大切なことです。
しかし、はじめから給料カットや人員整理をしてしまうと、従業員の士気を下げたり、優秀な人材がいなくなったりするため、生産性が下がり利益を圧迫するサイクルから抜け出せなくなるのです。
給料カットと人員整理という人件費削減は最後の手段と肝に銘じておきましょう。
本記事では、業務効率化という視点から人件費削減につなげる方法をお伝えしていきます。
自分の会社に適した人件費削減に取り組むことで業績アップを目指しましょう。
人件費の見直しは労働分配率の把握から
人件費の見直しというと真っ先に思いつくのは「人件費削減」ではないでしょうか?
しかし、人件費削減といっても、いきなり給与カットや人員整理をしてはいけません。
まずは、現在の人件費があなたの会社にとって適正な人件費なのかを知ることから始めましょう。
人件費が適正水準かどうかは「労働分配率」と言う指標を計算することで確認できます。
経済産業省によると、労働分配率とは「付加価値額に対しての人件費」を示す指標であり、会社が新たに生み出した価値のうちどれだけ人件費に分配されたかを示しているかがわかります。
労働分配率とは?
経済産業省「2020年経済産業省企業活動基本調査(2019年度実績)の結果(速報)を取りまとめました」によると、労働分配率の算出式は次のとおりです。
(※2)付加価値額 = 営業利益+給与総額+減価償却費+福利厚生費+動産・不動産賃借料+租税公課
給与総額については明確に書かれていませんが、今回、次のように算出しました。
(※1)給与総額 =役員報酬+従業員給与+法定福利費
(注)労働分配率の給与総額の中には福利厚生費を入れて計算されている労働分配率もありますが、今回の計算式では福利厚生費が給与総額に含まれていないため、そのように計算させていただいております。
この算出式だけでは、労働分配率でどんなことを表しているのか分かりにくいかもしれません。
まずはそれぞれの用語が何を表しているのか、次の損益計算書(単位:千円)を事例にしましたのでご覧ください。
※損益計算書から利用する数値は青で印をつけています。
事例に挙げた損益計算書から計算すると、労働分配率は50%を超えます。
労働分配率 = 給与総額(※1) ÷ 付加価値額(※2) × 100
54.6% = 275,000 ÷ 503,500 × 100
(※1)給与総額 (275,000)=役員報酬(80,000)+従業員給与(150,000)+法定福利費(45,000)
(※2)付加価値額 (503,500)= 営業利益(150,000)+給与総額(275,000)+減価償却費(6,500)+福利厚生費(30,000)+動産・不動産賃借料(12,000)+租税公課(30,000)
労働分配率 = 給与総額(※1) ÷ 付加価値額(※2) × 100
44.6% = 225,000 ÷ 503,500 × 100
(※1)給与総額 (225,000)=役員報酬(45,000)+従業員給与(135,000)+法定福利費(45,000)
(※2)付加価値額 (503,500)= 営業利益(200,000)+給与総額(225,000)+減価償却費(6,500)+福利厚生費(30,000)+動産・不動産賃借料(12,000)+租税公課(30,000)
労働分配率が高いと、人件費の割に利益が出ていない、すなわち人が利益を生み出せていないということを表しています。
逆に、労働分配率が低いと、利益はあるのに人件費が少ない、すなわち利益が人に還元できていないということを表しています。
分かりやすく言うと、労働分配率とは「利益に対する人件費の負担は問題ないか?」という生産性をみる指標なのです。
労働分配率の目安は業種によって違う!
「労働分配率」の目安は、50%程度あるといいと一般的にいいますが、実は業種により労働分配率の目安は違います。
経済産業省によると、産業別の労働分配率は次の通りです。
【産業別 労働分配率(%)】
平成29年度 | 平成30年度 | |
鉱業、採石業、砂利採取業 | 15.9 | 15.1 |
製造業 | 46.1 | 47.8 |
電気・ガス業 | 21.5 | 21.0 |
情報通信業 | 55.4 | 55.8 |
卸売業 | 48.5 | 48.6 |
小売業 | 49.4 | 49.3 |
クレジットカード業、割賦金融業 | 29.7 | 28.0 |
物品賃貸業 | 24.6 | 24.8 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 60.0 | 64.9 |
生活関連サービス業、娯楽業 | 45.3 | 47.1 |
個人教授所 | 60.7 | 57.2 |
サービス業 | 71.4 | 71.1 |
合計 | 47.7 | 48.6 |
【出典】「2019年企業活動基本調査確報-平成30年度実績-付表7 産業別、一企業当たり付加価値額、付加価値率、労働分配率、労働生産性」(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kikatu/result-2/2019kakuho.html)を加工して作成
労働分配率は、業種によって意外と差があることはおわかりいただけますでしょうか?
会社と同じ業種の労働分配率を確認し、自分の会社の人件費が適正水準であるかどうか計算してみましょう。
会社の労働分配率の数値が同じ業種の労働分配率を超える場合は、利益の割に人件費をかけ過ぎている可能性があります。
その場合は、現状を把握した上で、労働分配率を下げるために、生産性があがるような改善点を探していきましょう。
安易な給与カット・人員整理は危険
冒頭でもお伝えしたように、人件費削減だからと、いきなり給与カットや人員整理をしてはいけません。
安易な給与カットや人員整理はとても危険な行為になるかもしれないからです。
例えば、労働分配率が高いからと、単純に給与カットや人員整理をすれば、従業員の士気が下がりますし、いざ仕事が増えたときに従業員が足りず、採用コストがかかることになります。
慌てて従業員を採用できたとしても、すぐに即戦力にはなりません。
新人教育から始めなければならないため、残っている従業員に余計な負担をかけることになり、さらに不満を募らせることになります。
このように、従業員の士気が下がり不満が募れば、生産性も落ちることにつながるため、結果、会社の利益を下げることになります。
そのため、安易な給与カットや人員整理は人件費削減として得策とは言えません。
では、何から始めればいいのでしょうか?
まずは「仕事の作業効率にムラがないか?」「間接業務に無駄がないか?」というように仕事内容の見直しや業務改善などを考えていきましょう。
理想の会社は、人件費が高く、それ以上に付加価値額が高いことにより、労働分配率が低い状態をいいます。
そのような会社をめざすことが人件費削減や利益を上げることにつながるのです。
人件費を削減するための2つの視点
人件費を削減することで経営者が得たい未来は何でしょうか?
経営者の最大の悩みは、会社の業績悪化や資金不足です。
「利益率を上げたい」
「資金繰りを改善したい」
経営者の悩みが改善できれば、単純に給料カットや人員整理をする必要はなくなります。
人件費の削減は次の2つの視点から改善していきましょう。
- 業務効率化で生産性を高める
- 業務のアウトソーシングを活用する
それでは、人件費を削減するための2つの視点を1つずつ紹介していきます。
業務効率化で生産性を高める
業務効率化で生産性を高めると、人件費削減につながります。
例えば、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション[Robotics Process Automation])というものを活用してみましょう。
RPAとは、ロボットによる業務自動化として近年注目を集めています。
これまで人間が行ってきた定型的なパソコン操作をソフトウエアのロボットにより自動化します。
自動化により、仕事の無駄な作業や時間が省かれるため、そこから生み出された時間や人材を活用し、生産性のある仕事をしてもらいます。
自動化するための仕組みを取り入れるには初期投資やランニングコストは多少かかりますが、同じ作業にかける人件費よりコストダウンして、かつ利益が上がれば、総合的にみて業績アップや資金繰り改善にもつながります。
業務効率化するためのRPAや業務管理ソフトには、次の5つがあげられます。
- 会計・帳簿入力
Excelで作成した現金出納帳や売掛金台帳、買掛金台帳などは、定型的なフォームになっているケースが多く、会計ソフトの入力項目と結びつけることは難しくありません。Excelから会計ソフトに連動するための変換ソフトなどを利用して一気に仕訳連動することが可能です。
- 給与計算ソフト
タイムカードの出勤時間と退勤時間から勤務時間を手計算していたり、独自のExcelフォームで計算していたりといままで手作業していましたが、タイムレコーダーから勤務管理システムに連動させることで自動で給与計算されたり、従業員から年末調整アプリに必要事項を入力してもらうことで、自動で年末調整ができたりとします。
- 名刺データ管理
名刺データ管理システムに社内の名刺を読むこむことで、顧客データ管理(CRM)と連携したり、社内で他に名刺をもらっている人がわかったり、人事異動のお知らせがメールで届いたりなど、名刺1枚を社内で管理することで営業などの無駄をなくす業務改善につながります。
- 営業支援システム(SFA)
営業マンが営業活動を営業支援システム(SFA)に活動報告すると、次回の訪問時期や商談リストを作成するなど次の打ち手につながる情報をスケジュール管理してくれます。
今まで外回りして会社に戻り報告やスケジュールを組んでいたことが、営業支援システム(SFA)で一元化するため、営業マンは営業に集中でき、業務の効率化に繋がります。 - 顧客データ管理(CRM)
名刺データ管理との連携や顧客情報を一元化することで、顧客の来店履歴や購入履歴を通じて、次回の来店予約や購入した商品がなくなる頃に再案内することなど、顧客の来店・購買行動を促します。
このように、業務効率化するためのRPAや業務管理ソフトを活用することで、人の目でのチェックは多少必要にはなりますが、今まで時間をかけて手入力していたことが自動化し、無駄な残業がなくなるため、給料カットや人員整理などをしなくても人件費削減になります。
従業員満足にもつながるため、自ずと士気も高まり、生産性も上がることでしょう。
業務のアウトソーシングを活用する
業務のアウトソーシングを活用すると人件費削減につながります。
例えば、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング[Business Process Re-engineering])というものを活用してみましょう。
BPRとは、現在の社内の業務内容やフロー、組織の構造などを棚卸しし、根本的に見直し、組み直しすることをいいます。
これまで1人の従業員がしていた1つの案件を細分化し、業務ごとに分けて複数の従業員で受け持つことにより、業務の標準化につながります。
業務の標準化ができると、万一、任された従業員が休んだとしても誰でも交代可能になりますし、誰でもできる業務に出来れば、アウトソーシングも可能です。
業務のアウトソーシングができるようになれば、生み出された時間や人材を活用し、生産性のある仕事をしてもらいます。
アウトソーシングするための仕組みを取り入れるには、BPRにかける時間や人件費という初期投資が必要になりますが、誰にでもできる業務としてアウトソーシングしてしまえば、外注費というランニングコストだけで済みます。
外注費が同じ作業にかける人件費よりコストダウンして、かつ利益が上がれば、総合的にみて業績アップや資金繰り改善にもつながります。
まとめ
企業が人件費の見直しをすすめるにあたり、人件費削減の課題はつきものです。
しかしながら、単純に給与カットすれば、従業員の不満を募らせ、人員整理すればいざというとき人手不足で苦しむという悪循環から抜け出せなくなります。
まずは労働分配率から会社の現状を把握し、業務効率化という視点から人件費削減につなげる方法からしていきましょう。
労働分配率とは、「利益に対する人件費の負担は問題ないか?」という生産性をみる指標です。
労働分配率が高いと、人件費の割に利益が出ていない、すなわち人が利益を生み出せていないということを表しています。
逆に、労働分配率が低いと、利益はあるのに人件費が少ない、すなわち利益が人に還元できていないということを表しています。
「労働分配率」の目安は50%程度あるといいと一般的にいいますが、実は業種により労働分配率の目安は違います。
会社と同じ業種の労働分配率を確認し、自分の会社の人件費が適正水準であるかどうか計算してみましょう。
労働分配率を下げて生産性をあげるためには、次の2つの視点で業務改善することもよいでしょう。
【人件費の削減でも生産性があがる2つの視点】
- 業務効率化で生産性を高める
- 業務のアウトソーシングを活用する
現状を把握し、自分の会社に適した人件費削減に取り組むことで業績アップを目指しましょう。