ここ2~3年ですっかり定着した「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」という言葉ですが、それが果たしてどんな風にビジネスに役立つのか?
ぼんやりしたイメージの事業主の方も多いのではないでしょうか?
今までインターネットにつながるモノと言えば、パソコンやスマートフォンなど通信機器に限られていました。
これからは通信機器以外のモノでも自動的にインターネットにつながり、データの送受信や解析を通して産業の発展に役立っていく時代です。
では具体的に、国内のどんな分野でどんな導入事例があるのか?紹介するとともに、IoT導入を決断する基準についてもお話ししていきます。
農業でのIoT導入事例
【北海道】農産物直売所での二次元コードを活用したPOSレジシステム
農産物直売所の商品に、従来のバーコードではなく二次元コードを採用。
POSレジで読み込むことで「どの生産者の、どの商品が、どれだけ売れたか?」が記録され、1日3回生産者に送信される。
購入客は二次元コードをスマホなどで読み取ることで、生産者情報やその農産物に込めた想いなどのデータを見ることができる。
導入効果
- 販売情報が1日3回生産者に配信されることで、品切れになった時の商品の補充が迅速になった
- 販売情報が配信されることで、生産者の生産意欲の向上につながった
- 蓄積集計されたデータをもとに、生産者が次の営農計画を立てやすくなった
【栃木県】経験者の技術を数値で「見える化」し生産性アップ
熟練農家に小型カメラを装着してもらい、その視線を分析。
農産物のどこに目を付けて作業の判断をしているのか?を把握した。
また、日々の天候と作物の生育状況を観測する装置をハウス内に設置。生育に最適な状況になるように遮光カーテンや窓の開け閉めを自動でおこなえるようにした。
導入効果
- 経験の浅い生産者に熟練農家のデータを参考にしてもらうことで、スキルアップに役立つ
- 日々のデータが蓄積され比較ができるようになった結果、作業の改善につながった
※ここまでの事例は農林水産省に報告されたものを参考に掲載
建設業でのIoT導入事例
【福岡県】各現場の進捗状況を通信を使って一括管理
現場にいる職人が作業の進捗状況を携帯端末で撮影しデータセンターへ送信。
データセンターでは各画像が現場ごとに自動で振り分けられ、現場管理の事務所に送信される仕組みを採用。施主もその画像が確認できる。
導入効果
- 常時動いている20~30の現場の状況を管理事務所内で一括管理できるようになった
- 各現場の進行状況が画像により人目で確認できるようになった
【東京都】作業環境や作業時間のモニタリングで安全性と生産性がアップ
気象計や地震計を現場に配置し、温度や湿度、地震情報を把握。熱中症対策や地震時の対応に活かしている。
さらに、作業計画が記録されたICタグを作業者に渡して実際の作業時間を計測。計画に対してどれだけ進めることができたか?を分析している。
導入効果
- 誰が現場にいるのか?どんな環境下で作業をしているのか?が遠隔地の事務所や本社で把握できるようになり、作業者の安全管理に役立っている
- 作業計画に対しての実際の進捗状況が自動で取得できるようになり、現場管理の省力化や素早いトラブル対応につながった
※ここまでの事例はIoTユースケースマップと経済産業省に報告されたものを参考に掲載
製造業でのIoT導入事例
【群馬県】製造機器とネットワークカメラからのデータで生産量を1.5倍に
プラスチック成形の機器全台から稼働状況のデータを取得し、管理用パソコンで一覧で見られるようにした。
また、工場の各所にネットワークカメラを設置。
スマホやタブレットで全ての映像を一覧で見られるようにし、どこにいても工場内の状況が把握できるようにした。
導入効果
- 成形機全台の様子がどこにいても把握できるようになり、緊急停止などのトラブルに迅速に対応できるようになった
- 少人数でより多くの生産ラインが稼働ができるようになり、生産量がIoT導入前の1.5倍にアップした
【新潟県】紙から生産管理システムへ移行し情報管理の手間を削減
自動車や医療機器の部品製造メーカーにて、生産管理を紙からシステムに移行。
成型機から信号データを自動受信し、どの成形機が動いているか?停止しているか?どの部品をどれだけ生産しているか?などをパソコンやタブレットで簡単に把握できるようにした。
導入効果
- 生産管理を紙でおこなっていた頃に比べて、情報管理の手間とコストが減った
- 紙での情報管理では把握しきれなかったデータ同士のつながりが即座に分かるようになった
- 生産データが蓄積されることにより、適切な在庫管理ができるようになった
- メーカーが異なる成形機の使用上の注意点などが、現場からタブレットで確認できるようになった
※ここまでの事例は経済産業省に報告されたものを参考に掲載
運輸業でのIoT導入事例
【大阪府】車両、乗務員、売上げなど業務に必要な情報を一括管理
業務に必要な情報を一括管理できるシステムを導入した。
車両ごとにかかる経費を見える化し、どの車両が利益貢献しているかを判別できるようにしたり、乗務員の稼働時間から正確な給与計算ができるようにした。
導入効果
- 請求処理などの事務作業が簡素化され、労働時間の削減につながった
- 配車がスムーズにおこなえるようになった
飲食・宿泊業でのIoT導入事例
【神奈川県】宿泊客の好みや特徴、会計情報をデータ化し従業員に共有
手書きの台帳管理をシステムに移行。
予約や会計管理、宿泊客の好みや特徴など顧客情報をデータ化し従業員に共有できるようにした。
導入効果
- 宿泊客に応じてきめ細かいサービスが提供できるようになり、顧客満足度がアップした
- 売上げに対する業務量を分析できるようになった
- 導入後3年間で売上げが35%アップした
【大阪府】注文受付と複数店舗の状況把握にIoTを利用し生産性30%アップ
手書きの伝票での注文受付からタブレットに切り替え、書き間違いなどのケアレスミスを減少させた。
さらには複数店舗の稼働状況を一覧で見られるシステムやネットワークカメラを導入することで、各店舗のリアルタイムの状況が把握できるようになった。
導入効果
- 注文間違いによるロスを減らせた
- 各店舗の状況を把握することで、忙しい店舗に応援スタッフを配置するなど適正な店舗運営ができるようになった
- 労働生産性が30%アップした
【埼玉県】店舗内や貯蔵庫の温度を自動管理するシステム導入
冷蔵庫、冷凍庫、店舗の各所にセンサーを設置し、温度を自動で記録するシステムを導入した。
導入効果
- 温度管理を目視と手書きでおこなう手間が省け、労働生産性が10%アップした
- 店内の空調の温度調節が適切になり、より快適な店内環境になった
※ここまでの事例は経済産業省と近畿経済産業局に報告されたものを参考に掲載
卸・小売業でのIoT導入事例
【東京都】電子タグで棚卸し作業時間を10分の1に
商品数が多いアパレル小売店において、商品情報を埋め込んだタグ(電子タグ)を全商品に装着。
読み取り機やPOSと連動させて在庫状況が短時間で分かるようになった。
導入効果
- 棚卸し作業時間が40時間から4時間に短縮された
- 適正な在庫数が分かるようになり、在庫切れによる販売機会のロスを減らした
【東京都】購買履歴の蓄積データから個別のクーポン発行
レジに記録された購買情報を膨大にストックし、傾向を分析。
次回の来店につながりやすいクーポンを顧客別に発行するシステムを導入した。
導入効果
- クーポン使用率が1%から25%まで上昇
- 再来店率が高まり、クーポン商品以外の商品の購入機会も増えた
※ここまでの事例は商務情報政策局に報告されたものを参考に掲載
医療・福祉分野でのIoT導入事例
【北海道】部門を超えた情報共有で院も患者も時間短縮
電子カルテ兼医療会計端末を導入し、患者の予約状況や診療記録などを医師、看護師、薬剤師で共有できるようにした。
導入効果
- 各部門での情報のやりとりがスムーズになり、患者の待ち時間が減った
- ひとりひとりの患者に対して、よりきめ細かなサポートにつながった
【愛知県】介護記録の見える化と共有ができるシステム導入
特別養護老人ホームにて、タブレットを使って介護記録(日報)入力が簡単にできるようにし、データベース化。
入居者の健康状態や介護の状況が、事業所と入居者の家族で共有できるようにした。
導入効果
- 従業員が入力した業務情報を分析し、入居者に応じた適切な対応ができるようになった
- データベースを元に従業員を最適な場所に自動で配置することにより、シフト管理の手間が省けた
教育・保育分野でのIoT活用事例
【鳥取県】分身ロボットを活用した学習支援
児童の代わりに分身ロボットが授業に参加。
ロボットからインターネットを通じて授業の様子を遠隔地に配信する仕組みを導入した。
児童は端末越しに授業に参加。教室にいるロボットを操作し、手を挙げる、発言するなどの動作をすることができる。
導入効果
- 病気や障がいなどで学校に通うことができない児童でも、双方向のコミュニケーションを取りながら授業を受けることができる
【埼玉県】事務作業や書類作成をシステムで簡単に
保育園の運営において発生する事務作業(日誌、勤怠管理、延長保育料の計算など)を簡単な入力でおこなえるようなシステムを導入した。
導入効果
- 各事務作業で重複していた部分を省くことができ、無駄な残業をしなくてもよくなった
- 職員の作業効率化への意識が高まり、意識改革に成功した
※ここまでの事例は総務省と経済産業省に報告されたものを参考に掲載
もはやIoTや大企業だけの話ではなく、中小企業や小規模事業者でも積極的に取り入れて、業績や業務効率化をしていく時代です。
自社へIoTを導入するか否か?その判断基準は
IoT導入へ踏み切った企業に共通するのは「当たり前を当たり前と思わない」という意識です。
当たり前のように使っているこの基幹システムは、果たして時代に合っているのだろうか?
当たり前のように紙で情報管理をしているが、もっと簡単な管理方法があるのではないか?
当たり前のように残業をしているが、やり方次第では削減できるのではないか?
当たり前のようにデータ送信をしているが、そもそも送信せずとも共有できる仕組みがあるのではないか?
いつもの作業を、もっと直感的に、もっと効率的にできるはずと気付いた先にIoTがあります。
IoTは単なるコスト削減のツールではなく、時間を生み出してくれる重要な役割を担っています。
これまで通常業務で消費されていた時間が事業発展のアイデアを考える時間に変われば、ビジネスは加速度的に成長していきます。
IoTを導入する判断基準として事例を参考にするのもひとつの手ですが、まずは自社の「当たり前」を疑ってみることこそが、IoT導入のタイミングを判断する基準になります。
今後事業をどう発展させていきたいのか?まずは理想のイメージをお聞かせください。
目的から逆算して「必要な通信の仕組み」をアドバイスし、あなたのビジネスの伴奏者になっていければと思っています。