自動化や効率化が求められている今、「IoT」という言葉を耳にすることも多いのではないでしょうか。
自動車業界もIoT化が進んでおり、自動運転技術が進化しています。さらには家庭にも普及してきているスマートスピーカーやスマートホームなどもIoTの一種です。
インターネットに繋いで自動化できる家電も増えてきており、IoTは私たちの生活に欠かせないものになってきています。
昨今注目を集めているDX(デジタルトランスフォーメーション)においても、AIやビッグデータなどと並んで、IoTは重要な役割を担うでしょう。
この記事では、IoTとは何なのか、どんな機能でどんなことができるのか、活用事例を交えて紹介します。
IoTの知識があいまいな人はぜひ最後まで読み進めてみてください。
IoTとは
IoTは、「Internet of Things」の略称で、日本語では「モノのインターネット」言われます。
IoTという言葉が出てくる以前、”インターネット”はコンピューター同士を接続する役割を果たしていました。そしてデバイスとして主に使われていたのはパソコンでした。
その後デジタル技術の急速な発展により、スマホやタブレットといったデジタルデバイスが普及します。
そしてさらにデジタル化が進んだ現在では、テレビやカメラ、掃除機などの家電や自動車までインターネットを介して利用することが増えてきました。
従来はコンピューター同士をつなぐ役割を果たしていたインターネットですが、今ではあらゆるモノに通信機能を持たせているため、モノ同士の情報伝送路になりつつあります。
このように、これまでインターネットにつながっていなかったモノをつなぐことをIoTと呼びます。
ちなみに、モノ同士を接続する手法として、IoTの前は「M2M」(Machine to Machine)というものがありました。ただし、M2Mはインターネットに接続せず、機械同士がセンサーネットワーク上でやり取りをするシステムです。
一方IoTはインターネット通信を軸に情報のやり取りをおこなうため、機器間でのやり取りにとどまらず、活用の幅が大きく広がります。
IoTの機能
IoTを活用することで実現できる機能は、大きく分けて5つあります。
・モノの操作
・環境の把握
・モノの動きを検知
・モノ同士の通信
それぞれ一つの機能だけではなく、組み合わせて活用できるケースもあるでしょう。
一つずつどのような機能なのか、詳しく見ていきましょう。
モノの操作
モノの操作をすることは、IoTの代表的な機能です。その場にいなくても、離れた場所から操作することも可能なため、家電などに広く取り入れられてます。
例えば、カギを閉め忘れたことに気づき遠隔でカギを閉める、帰宅前に部屋のエアコンを起動させておく、外出先からロボット掃除機を稼働させる、など生活を便利にする用途で使われることが多いです。
さらに最近では、ペット用のフードサーバーもIoT化しており、遠隔地から必要な量のエサをペットに支給することもできます。
ただスイッチをオンオフするだけでなく、エアコンは最適な温度に設定したり、掃除機はこの部屋だけを掃除したい、これだけの量のエサを出したい、というような細かな調整も可能であることがIoTの強みでもあります。
状態の把握
離れた場所にある環境を把握できることもIoTを活用するうえで欠かせない機能の一つです。
例えば外出先から、現在の部屋の温度を確認したり、照明の状態を確認することができます。
それによって部屋を最適な温度に設定し直したり、照明がつけっぱなしだったことにも気づけて、節電や効率化につながります。
また、IoTはモノの状態だけでなく、ネットワークカメラなどで人の状態も把握できるため、認知症の方の見守りなどにも最適です。
ネットワークカメラやスマートロックなどのIoTを使用することで、介護にかかる大きな負担を和らげることも可能でしょう。
モノの動きを検知
IoTはモノや人の動きを検知する機能は、自動運転技術にも使われています。
自動運転技術は、モノや人の動きを検知するセンシング技術とIoTを組み合わせることで飛躍的に向上しました。
モノや人の動きを検知する機能を発展させることで、建設現場や工場などでの労働災害の減少も期待されています。
身近なもので言うと、人感センサーがこの機能に当てはまります。人の動きを感知し、必要な時に必要なだけのエネルギーを消費するので、節電効果も期待できるでしょう。
更に私たちが普段利用しているバスにもモノの動きを検知する機能は搭載されつつあります。都心の一部では、バスの動きから状況を把握し、到着時間や混雑状況を知ることができる機能が搭載されているのです。
これによって事前に状況を知ることができるため、効率的に移動方法を選択することができます。
モノ同士の通信
最後の機能は「モノ同士の通信」です。
これは、モノとモノで通信することで、複数の電子機器を動かせる機能のことを言います。
自宅などの場合は、スマートスピーカーやスマートホームを使うことが一般的でしょう。
スマートスピーカーと家電を連携しておけば、口頭で指示をするだけで、照明のオンオフ、エアコンを最適温度で起動、お風呂のお湯をためるなど、生活の様々なコトが口頭だけで動かせます。
モノ同士の通信は、自動運転にも取り入れられています。
信号機から車へデータを送信し、車はそれを受信することで速度を調整したり、信号機から送られてきたデータで混雑状況を知るなど、さまざまな用途での活躍が期待されている機能です。
IoTの活用分野
自宅でIoTを活用できるのはもちろん、医療や福祉、製造業や農業、そして交通や物流の分野でも活用されています。
それぞれの分野でどのように活用されているのか、見ていきましょう。
医療分野でのIoT活用
従来は病院に足を運んで医療サービスを受けることが当たり前でしたが、今後IoT化が進めば患者の健康状態が分かる生体データを共有し、遠隔での診療も可能になるでしょう。
病院に行く必要がなくなることで、待ち時間も病院までの交通費も必要なくなります。
高齢化が進む地域の医師不足を解消することもできますし、在宅医療の推進にも貢献できます。
福祉分野でのIoT活用
人手不足に悩まされている介護業界にもIoTは有用です。
例えば、人感センサーやスマートロックで認知症の方の動きを検知したり、部屋の家電の使用頻度やベッドの使用状況などをデータ化して管理することで、健康状態も把握することができます。
高齢者の一人暮らし家庭においても、こういったIoTを活用することで問題となっている孤独死を防ぐことも可能でしょう。
製造分野でのIoT活用
製造分野はIoT活用の主戦場ともいえる分野です。
各地にある工場の生産ラインを可視化し一括で管理することで、問題の早期解決ができ、改善の質が上がります。費用対効果を最適化することで生産性の向上にもつながるでしょう。
また、設備機器の状態も把握できるため、故障によるリスクの低減にも効果が期待できます。
農業分野でのIoT活用
人手不足という深刻な問題を抱えている農業分野でも、IoTの技術は活躍しています。
農業はノウハウの継承が難しく、これは人手不足問題の原因の一つともなっているのが現状です。そこで、野菜など作物の育成状態や環境の数値化をIoTでおこない、データを集め分析すれば農業のノウハウを後継者に受け継ぐこともできます。
また、水やりや肥料の必要な時間、量などをその日の天候や作物の状態を感知し自動でおこなうことも可能でしょう。
ハウス内の温度や湿度を離れた場所からでも操作できるようになり、効率的に作物を育てることができます。
交通分野でのIoT活用
交通分野でのIoT活用は上でも少し触れましたが、高速道路の渋滞状況や電車の遅延状況はもちろん、公共交通機関の車内の混雑状況などもセンサーで感知し知ることができます。
また、遅延の多いバスの運行状況や到着時間も事前に知ることができるようなシステムも徐々に導入されていくでしょう。
車の自動運転も日々進化しており、スマホから遠隔操作で駐車ができる日立が開発したシステムも注目されています。
物流分野でのIoT活用
物流分野でもIoTは積極的に導入されています。
倉庫内で人の代わりにピッキングや検品をすることもIoT導入で得られる恩恵の一つです。
食品など温度管理が必要な商品の運搬には、温度センサーを搭載し車内の温度が基準値を逸脱していないかの確認をします。特に冷凍食品の運搬は配送先が多いほど扉の開け閉めなどで温度変化が起きやすいため、顧客満足度に関わります。
また、配車システムを導入し車両を一元管理することで、運行中の車両と空き車両の状況が一目でわかり、迅速に適切な配車をおこなうことが可能です。
IoTの活用事例
それでは実際にIoTを活用している事例をいくつかご紹介します。
分野ごとに分けて見ていきましょう。
医療分野のIoT活用事例①:患者見守りシステム「ワイズキーパー」
株式会社ワイズ・リーディングが提供している患者見守りシステム「ワイズキーパー」は、病院内に受信機を定点で設置し、患者を見守り危険や事故を未然に防ぐモニタリングシステムです。
ただ病院内を見守るだけでなく、患者一人一人に合わせた見守り条件の設定ができるため細やかな対応が可能なところが特徴です。
患者の現在地や行動履歴を把握し、危険を察知したらアラートがなり、病院内での事故の低減に効果を発揮してくれるでしょう。
医療分野のIoT活用事例②:オンライン診療・服薬指導アプリ「CLINICS」
株式会社メドレーが提供しているのは、オンラインで診療や服薬指導が受けられるアプリです。
インターネット環境があれば自宅で診療を受けることができるため、わざわざ外出する手間や時間をかけずに済みます。継続的な通院が必要な方、高齢で車の運転や移動が困難な方に重宝されるでしょう。
また、オンラインで服薬指導をおこなえば薬は自宅に届けてもらえます。
服薬指導は希望があればアプリから対面指導の予約もできるため、自分の体調や方針に合わせた診療、服薬指導が可能です。
福祉分野でのIoT活用事例①:高齢者のみまもり「エアコンみまもりサービス」
福祉分野では、パナソニックの「エアコンみまもりサービス」が有名なIoTシステムです。
高齢者は、部屋の温度変化に気づきにくいため熱中症のリスクが高かったり、冷房をかけっぱなしで体調を崩したりということが少なくありません。
そういったリスク回避のために「エアコンみまもりサービス」で遠隔で操作し、部屋を最適な温度と湿度に保ちます。
さらにドップラーセンサーを設置し、入居者の在室、不在を確認したり睡眠状態を測定することも可能です。
部屋の温度が高すぎる、低すぎる、入居者の不在が長すぎるなど不安要素があれば職員に通知し、入居者の安全を守ってくれます。
介護現場では多忙を極めていることが多く、エアコンの温度まで細かに調整することは難しいため、職員の負担軽減にもつながるサービスです。
福祉分野でのIoT活用事例②:排泄予測デバイス「Dfree」
「Dfree」は、膀胱にセンサーを取り付け、尿の溜まり具合に応じて排尿前もしくは排尿後のお知らせが届くデバイスです。
膀胱の尿のたまり具合を10段階で表示するため、最適なタイミングでトイレへ誘導ができたり、定時でのおむつ替えが空振りに終わることもなくなります。
また、排泄をお知らせするだけでなく排泄ケアを一覧で記録でき、さらに排尿傾向を分析できるため、煩雑な記録や傾向の把握もDfreeで解決できます。
製造分野でのIoT活用事例①:製造工程のコスト削減と品質向上「eF@ctory」
三菱電機が進めている「工場設備IoTで製造現場起点の情報を取得して有効活用する」ミッションである「eF@ctory」。
これは製品そのものではなく、三菱電機が得意とするFA機器を始めとした各機器を使ってコスト削減や品質向上に向けていく取り組みのことを指します。
ロッテでは、この「eF@ctory」と共に工場のスマート化を目指しており、「雪見だいふく」の製造ラインにIoTを取り入れました。
原料などのばらつきへの対応は人がおこなってきましたが、それをデータ化し品質を安定させること、また機械トラブルを瞬時に知ることでトラブル対応を素早く進め稼働率の向上を目指しました。
製造分野でのIoT活用事例②:あらゆる問題の可視化「Tibbo-Pi」
「Tibbo-Pi」は、直感的にハードウェアとソフトウェアの連携を体感できたり、簡単にハードウェアを開発できるデバイスです。
「IoTをとりあえずやってみよう」という場合にとても役立つデバイスで、製造業の他、あらゆる業界で使われいます。
実際このTibbo-Piを使ってデータの見える化をおこなったことで、これまで隠れていた様々な問題が可視化できるようになり、業務改善し生産性の向上やコスト削減に役立った事例もあります。
農業分野でのIoT活用事例①:作業効率化と人員削減「ワイン製造にIoTを導入」
山梨県甲州市にある「奥野田ワイナリー」では、ワインの製造にIoTを導入しました。
奥野田ワイナリーの広い農園では、農園の状況確認だけで半日~1日かかっており、カビ被害を防ぐこともなかなか難しかったようです。
そこで、農園に富士通が開発したネットワーク機器を設置し、農園内の気温、湿度、雨量データなどを10分程度で取得できるようになりました。また、農園内に小型カメラも設置し、リアルタイムで農園の状態を知ることもできます。
このようなIoTの導入により、農園の状況をいち早く把握し、問題を早期発見することで効率化を実現しました。
農業分野でのIoT活用事例②:テクノロジーで農業を実現「FieldServer FS-2300」
「FieldServer FS-2300」は、スマート農業において様々なプロダクトを開発している「株式会社ベジタリア」のプロダクトです。
農場の環境や作物の生育状況を常にモニタリングし、データに基づいて栽培管理をします。そのため、わざわざ現地に足を運ばずとも、遠隔で作物の管理が可能です。
また、天候予測や生育環境を分析する機能も搭載しているため、高い品質を保ちながら栽培をおこなうこともできます。
「FieldServer FS-2300」ではセンサーラインナップが豊富にあり、ハウス栽培や露地栽培、果樹園、茶畑など、あらゆる栽培環境に合わせたIoT活用が可能です。
交通分野でのIoT活用①:安全運転をサポート「ITS Connect」
「交通死傷者ゼロ」の社会を願って、トヨタが開発した技術「ITS Connect」。
この技術は道路と車、あるいは車同士が通信により、対向車、歩行者、信号情報などを取得し、ドライバーに注意喚起を促します。
また、車同士の通信で前方の車の加速状況を把握し、それに応じて車間距離を保ち速度の変動を抑えたり、緊急車両の存在を通知するなど、道路を安全に走行するための技術がいくつも搭載されています。
ITS専用の周波数で通信をおこなうため、従来のセンサーでは感知できなかった、見通しの悪い交差点や歩行者情報も取得することができるため、交通事故を減らすための技術として注目されています。
交通分野でのIoT活用②:スマートカーへの一歩「スマートウォッチとの連携」
これは車とスマートウォッチを連携し、スマートウォッチでナビを起動できるIoTです。海外ではすでに導入が始まっていて、スマートウォッチにナビをさせることで、車移動だけでなくその後の徒歩移動にも対応ができます。
さらに専用アプリをダウンロードするとドアロックや解錠もおこなえるなど鍵の役割を果たしたり、スマートホームのように遠隔でエアコンを調節したりといったことも実現されています。
また、車にGPSを搭載しておくと、スマートウォッチに位置情報が表示されるため、盗難抑止、盗難後の早期発見などにも役立っているのです。
今後スマートウォッチなどのウェアラブル端末との連携は当たり前になり、さらに便利な機能が搭載されていくと予想しています。
物流分野でのIoT活用①:人為的ミスを防ぐ「倉庫管理システム」
倉庫には数多くの商品があり、その在庫管理には手間がかかる上にミスも起こりやすいです。
出荷時の数の入力、保管場所、商品のピッキング、検品作業など、倉庫作業には人為的ミスが起こりやすい場面がいくつもあります。
こういったミスを減らすために、倉庫管理システムを導入しモノの流れを一元で管理する会社が増えています。
現在の在庫数、入出荷数、賞味期限の管理、スムーズなピッキング、棚卸作業の効率化など、あらゆる管理が一元化できるため、人為的ミスが減り作業の効率化も実現できるでしょう。
物流分野でのIoT活用②:効率よく配送をおこなう「配車システム」
配送業務は物流分野において要となる部分であり、いかに効率的に配送車を動かしていくかが重要になります。
「荷物に対して必要なドライバーと車の数」「配送希望時間」「輸送コスト」などさまざまな条件を照らし合わせて効率よく配車をおこなえるように計画を立てているのです。
従来は配車係という役割をする人が担っていた業務で、業務的にもブラックボックス化しやすく、物流業界の課題でもありました。
この業務を配車システムによって、その日出荷するモノ、配送車の状況、出勤しているドライバーの数などをデータとして登録することで、自動的に効率的な配車計画を導き出します。
これによって、人員削減やコスト削減、輸送の効率化などさまざまなメリットが期待できます。
まとめ
IoTの普及によって、今まで不便に感じていたことや、人手不足の問題、生産性など、あらゆる面での課題を解決することができるようになってきています。
モノが増えていく世の中で、IoTは今後もさまざまな分野や場所での活用が期待されています。業界の困りごとを解決するだけでなく、身近なもので言うと、スマートホームで家事を楽にしたり、介護や育児においてIoTを活用して負担を軽減することも可能です。
IoTにはまだまだ可能性が秘められており、今後もあらゆる活用方法が見いだされていくと考えられます。
DXの推進も進められ、社会的な豊かさも求められていく中で、IoTの活用は今後も欠かせない要素になっていくでしょう。