RPAは大企業や官公庁など組織や資本がしっかりしているところでそこそこ導入が進んでいますが、中小企業に限って言えば導入率はまだまだです。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)はホワイトカラーの労働に革命的な改革を起こすと言われているビジネスツールです。
製造業におけるFA(ファクトリー・オートメーション)と同様に、営業サポートや管理業務などもオートメーション化が可能になってきました。
ところが、導入事例を見ていると、このRPAには2つの側面があることが分かってきたのです。
1つ目は運用メリットとも言える「会社の業務効率を飛躍的に上げてくれる」一面と、2つ目は導入デメリットである「RPA導入による社内の混乱」という一面です。
せっかくのビジネスツールが諸刃の剣になってしまうかもしれない、お金や時間をかけて導入したものが成果を上げる以前に混乱をもたらすのは”もったいない”ですよね。
今回の記事では、RPA導入のメリット・デメリットを明確にしてその力を最大限に発揮するために何が必要かを考えていきたいと思います。
RPA導入のメリットとは
RPA導入の最大のメリットは「ホワイトカラーの生産性を向上させる」この一点につきます。
従来のホワイトカラーの業務は限られた時間(1日8時間)内の業務量に限界がありました。それ故に仕事が終わらなければ残業してその日の業務を終わらせるか、量を減らして(業務分担など含む)時間内に終わらせるかという2択を迫られていたわけです。
ところが、RPAを使うとその2択の手法は無くなり、それどころか同じ時間で従来以上の業務量が可能になるという新たな働き方を手に入れることが出来ます。
RPAは必要なロボット社員を何体でも増やせる
では、その新たな働き方とはどのような状態をいうのでしょう、
社員一人の労働生産性は決められた時間の中で生み出される成果の量で測られますが、実は日本の労働生産性は諸外国と比べても決して高いとは言えません。
引用元:https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/R17attached.pdf
同じ時間の働きで、これだけ生産性に差が生じるというのは単に「日本の働き方」は効率がよくないということです。
この調査は全産業のもので、製造業だけに限れば15位と少し順位が上がるため非製造業の働き方のほうが比較的問題があると言えそうです。
その中でも、社員数に限りがあり一人で何役もこなさなければ会社が回らないといった中小企業ではその傾向は大きいでしょう。
忙しく働いているのに成果が上がらないといった働き方が定着していませんか?
これまで日本では景気が拡大し、企業業績が上がり続けていたので生産性はあまり注目されなかったかもしれません。ところが、高い成長が望めない現代では業務効率を上げることでしか成果を上げ続けることが出来きなくなっています。
「業務効率を上げる=業務をより短い時間で終わらせる」ために働く側としては、今の仕事を複数人でできたらという発想に行き着きます。
一人でやるより半分、とは言わないまでも3、4割減の時間で終わらせることも可能でしょう。残業をすることもなくなり、休日もしっかり取ることができるでしょう。ですが企業側としては人件費が膨らんでしまうためベストな形とは言えないでしょう。
もしも社内に一人でも上記のような社員がいるのであれば、RPAの導入はその社員にとって大きな力になり得ます。
なぜなら、RPAはPCの中だけとは言え、その社員に必要な作業をやってくれる「もう一人の自分とも言える」ロボットを作ることができるからです。
使いこなしていけば3体でも4体でもロボットを生み出すことが可能なものなのです。
極端な言い方をすれば、ホワイトカラー全員分のロボットを作り出すことすら可能な能力がRPAにあります。RPAは会社や部署や社員にとって必要なロボット社員を必要なだけ増やすことができるのです。
ロボット社員が増えた分だけ効率が上がる
RPAの最大の強みは必要な業務を自動で行ってくれるロボット社員を必要なだけ作ることができることですが、そのためには大切な導入プロセスがあります。それは「最小コストで最大効果を得られる業務から導入する」ことです。
例えば、営業部に受発注管理と経費精算を任されている社員がいるとしましょう。入社20年のベテラン社員は月に1,2日の休日出社と月末に10時間程度の残業をしながらこの業務をこなしているとします。
その働く時間は1ヵ月で(1日8時間x21日出社=168時間 休日出社8時間+残業10時間=18時間)の合計176時間になります。
この176時間のどの部分をどのくらい削減して効率を上げるか?という視点が大切なのです。
①オーバータイムの18時間を減らす
(18時間)+②通常時間の1割程度(17時間)を減らす
(18時間)+③通常時間の3割程度(50時間)を減らす
という3つのパターンを考えた場合でも、RPAはどのパターン用にもロボットを作り出すことができます。それぞれのロボットのコストを算出し経営面、労務管理面から効果を測ることができるのです。
その後、その社員は経費精算業務をRPAロボットに任せ、日々2,3時間の業務時間を減らすこと(③のパターン)ができるようになるでしょう。余力ができた社員は毎日忙しくしている経理部の応援へ向かうことも可能になります。最終的には、この応援で今度は経理部員の残業が減り営業・経理の2部門で効率を上げることに貢献する、という可能性すらあるでしょう。
最初の効果はそう大きなものではないかもしれません。いえ、最初はこのくらいの効果を目指して導入するのがRPAと上手に付き合うコツだと言えます。
一人の社員の「残業時間ゼロ」を目標にロボット社員1体が作られ、次に他部署、他部門でも同じ目標でロボット社員が作られていけば、ホワイトカラー社員の残業時間は無くすことが可能になります。
そして、次の段階である本格的な「ホワイトカラーの生産性の向上」という目標のために新たなロボットが作られていけば、労働時間に大きな余力が生まれ前述の社員のように社内での人材流動化が活発になるでしょう。
そこまでいけばRPAを使いこなした成果と生産性のアップを全社的に享受できると思います。
RPA導入のデメリットとは
上記のようにRPAは小さなものから大きなものまで様々な導入メリットを与えてくれますが、導入後予期せぬデメリットが生ずることがありますから注意しておきましょう。
一般にRPA導入のデメリットとして
①導入時の業務細分化が大変
②導入コストに見合った成果が見えずらい
③運用にも専任が必要でRPAの業務がブラックボックス化し易い
などが言われています。
ですが、これらはRPAロボット上手く作れなかったり、運用後の取り決めがなかったような場合に起きていることです。これらは、そもそもRPA導入に何を期待していたのかが不明なケースと言えるかもしれません。
上手くいけばいくほど企業内リソースが枯渇
実はRPA導入のデメリットは別のところにあるように思います。
先ほどの例で社員は営業部と経理部を掛け持ちで任されるようになりました。社員の経理スキルも上がり、経理部としても業務分担によって作業時間が削減され効率を上げることができたという相乗効果が見られました。
これは、確かにがRPA導入の大きなメリットです。ところが、営業部で導入したRPAが成果を上げた事を知った経理担当社員は社長に直訴し、経理部でもRPA導入を提案。今度は、それまで自分がやってきた業務の全てをロボットに任せてしまいます。
すると何が起きるかと言うと、PC業務のほとんどをロボットがやってしまうため経理社員と応援の社員のやるはずだったPC業務が半減、という状況が生じます。
実際にはRPAロボットの稼働状況などを監視、確認したりする「新しい仕事」は発生しているのですが、それまでの経理業務の範疇に納まっています。
これではRPAの導入が、ただ「経理社員の仕事を楽にした」ということだけになってしまします。
この時、もしこの経理社員が日々PCの前でロボットの管理しかしなくなったとしたら・・・本人の仕事へのモチベーション低下や他部署からのやっかみなど社内に悪い影響が及びかねません。
それらを防ぐためにもこの経理社員に、今までとは別で何の仕事をしてもらうかという社内リソースが必要になってきます。社内リソースが豊富であればすぐにでも別部署の仕事や、より高度な自部署の仕事を任せることもできるでしょう。
このような経理社員や応援に来てくれた社員のような状況が3人、5人と増えていくことがRPA導入後の社内の姿です。このような状況に適切に対応していけるだけの社内リソースを準備しておかなければなりません。
しかし、もし社内リソースが枯渇してしまうと事業自体が頭打ちとなり業績は伸びず、社員もRPAに仕事を奪われてしまったと感じるRPA導入の最大のデメリットと向き合うことになってしまします。
効率が上がって生産性を向上させるためには、社員の流動化に応えるだけの社内リソースが必要なのです。
ホワイトカラーは業務激変!人件費削減に大きな影響も
現在ではホワイトカラーの業務はそのほとんどをPCの中で行います。
前述したように、RPAは「PCの中にロボットを作り業務を代行してもらうことができる」機能を持っていますが、とは言ってもその全てを代行できる訳ではありません。
前項での社内リソースの多くもそういったジャンルの業務になっていくでしょう。
これまで資料作成のためのデータ収集や伝票や帳票作成など一番手間がかかる業務をロボットに任せることができるわけですから、空いた時間を何に使うかがホワイトカラーにとっては最大の関心事になっていきます。
労働時間の削減が人件費に影響?
あまり計算したことはありませんでしたが
人は生涯で途方もない時間を労働に費やしています。ですが、仮に1日あたり1時間程度の業務をRPAに任せるだけで生涯労働時間は10000時間余りも削減させることが可能になります。
もちろん、新入社員時➡中堅社員時➡管理職時➡幹部社員時ではRPAの役割りも変遷していくでしょう。その変遷の中で常に1時間だけ業務をRPAに任せるだけで生涯10000時間が本来の業務とは別のことに使えるわけです。
しかし、この10000時間の使い方を誤ると会社としてはその時間を無駄と捉えてしまうかもしれません。
とは言え、どんなにRPAが進化していっても経済や企業が人のために存在している以上、人が介在しなければならない業務はなくなることはありません。
RPAによって生まれた10000時間分の人件費が無駄として削減されてしまうのか、それともその時間を使って新たな価値を生み出し10000時間分以上の報酬を得るのかは、これからの企業と社員双方の大きな課題と言えるでしょう。
まとめ
RPAの導入はホワイトカラーの働き方を大きく変えるロボットです。従来、時間がかかり大変だった業務をいとも簡単に代行してくれます。
その効果を「どこまで求めるかで会社や社員の方向性が変わっていく」と言ってもいいくらいのインパクトがあります。
会社と社員とRPAが常にベストな状態で付き合っていける、そのために必要なパートナー選びはとても大切だといえるでしょう。
この記事では、ここ数年で急速に普及してきたRPAのメリット・デメリットなどについてお伝えしていきます!